ウクライナから世界へ ―ユダヤ文学の20世紀―

220225-event

ウクライナから世界へ

――ユダヤ文学の20世紀―― 

朗読/上演と解説
(全4夜)
オンライン配信あり

 

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【主催】科学研究費・基盤研究(B)「ロシア・ウクライナ・ベラルーシの交錯――東スラヴ文化圏の領域横断的研究」(研究代表者:沼野恭子)
【協力】神戸ユダヤ文化研究会

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【日時】

〔第一夜〕3月20日(日)18:00~20:00
隠遁者の憂鬱――デル・ニステル「なけなしの財産」(1929)
終了しました。3月31日まで上記リンク先でご視聴いただけます。

〔第二夜〕3月27日(日)18:00~20:00
ベルリンのイディッシュ作家――ドヴィド・ベルゲルソン「二匹の獣」「盲目」(1926)

〔第三夜〕3月29日(火)19:00~21:00
絶滅に抗して――ワシーリー・グロスマン「最期の手紙」(『人生と運命』(1959)より)

〔第四夜〕3月30日(水)19:00~21:00
波乱万丈の果てに――マーティン・シャーマン『ROSE ローズ』(2000)

 

【場所】オンガージュ・サロン
大阪府大阪市天王寺区勝山3丁目9-4
https://www.engage-salon.com/
※各回の模様はオンラインでも配信する予定です。

 

【参加費】無料

 

【定員】(各回)15名
※新型ウィルスの感染状況によっては、オンラインでの開催のみとなる場合もございます。
その場合は、ご予約者にその旨ご案内いたします。予めご了承ください。

 

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【趣旨】
ポーランド貴族の支配、コサックによる叛乱と虐殺、ロシア帝国の圧政、ポグロム(ユダヤ人虐殺)の頻発、ロシア内戦の激戦地、ソ連体制下での人為的な大飢饉、ナチス・ドイツによる占領と絶滅政策、チェルノブィリ原発事故、そして今起こりつつあるロシアによる侵攻。ウクライナは、ユダヤ人にとって、度重なる歴史的動乱によって悲劇が繰り返されてきた土地として記憶されている。しかしウクライナは同時に、西欧における迫害からの避難所、ユダヤ教敬虔派ハシディズム揺籃の地、ユダヤ人街シュテットルの豊穣な文化的土壌、ヘブライ語とイディッシュ語による近代ユダヤ文学発祥の地にして、20世紀のアメリカ、ソ連、イスラエルをはじめとする世界各地の文化に多大な影響を与えた人々を輩出した「約束の土地」でもあった。

本企画では、ウクライナをルーツとして、ドイツ、ソ連、アメリカ合衆国で活躍したユダヤ人作家の作品の朗読/上演と解説を通して、世界中の様々な地域で展開した20世紀ユダヤ文学の一端に触れ、再び混迷の度合いを増している21世紀を生きる我々に今なお投げかけるメッセージについて共に考えてみたいと思います。

第一夜「隠遁者の憂鬱」と第二夜「ベルリンのイディッシュ作家」では、ロシア革命前夜のキエフで結成された「文化同盟」の中心メンバーにして、ベルリンでの亡命生活を経てソ連邦に「帰還」した後、第二次大戦終結後、スターリン体制末期におけるユダヤ民族文化の弾圧で犠牲となった二人のイディッシュ作家、デル・ニステルとドヴィド・ベルゲルソンの作品を取り上げます。象徴主義の影響を受け、ホフマンやカフカを思わせる幻想的な作風で知られるデル・ニステル。方や、イディッシュ文学の紋切型から脱却して印象主義的な作風で一躍流行作家となったベルゲルソン。同様の人生行程を歩みながらも、極めて対照的な作品を残した二人の作家を軸に、故郷ウクライナへのノスタルジー、ドイツでの亡命生活、そしてソ連邦への悲劇的な「帰還」を通じて彼らの文学に刻印された葛藤の諸相に迫ります。

各回では、朗読劇『ディブック』(アン=スキ作・赤尾光春訳、鈴木径一郎演出)に出演したメンバーを中心とする演劇人たちによるテクストの朗読を、各テクストの翻訳者である赤尾光春(大阪大学ほか非常勤講師、専門は東欧ユダヤ文化論)と田中壮泰さん(立命館大学非常勤講師、専門はポーランド文学)による解説を交えてお届けします。

第三夜「絶滅に抗して」では、ウクライナの「ユダヤの都」ベルディーチェフに生まれたソ連のユダヤ系ロシア作家ワシーリー・グロスマンの長編『人生と運命』の最も有名な章である「最期の手紙」を取り上げます。独ソ戦の勃発とともにナチス・ドイツに占領されたウクライナで虐殺されたユダヤ人女性(グロスマンの母親がモデル)の最期の日々を想像して描かれた、極限状況下における人間精神の苦悩と葛藤を凝縮した珠玉の作品を、東京演劇アンサンブルのベテラン俳優である志賀澤子が朗読します。

第四夜「波乱万丈の果てに」では、『ベント:堕ちた饗宴』等の舞台作品で現代アメリカ演劇を牽引するマーティン・シャーマンの『ROSE ローズ』を上演します。故郷ウクライナを出立し、波乱万丈の人生を経てアメリカで劇的な余生を送る一ユダヤ人女性の述懐を通じ浮かび上がってくる20世紀のユダヤ人の経験と記憶に光を当てます。出演は、両国のシアターXにてライフワークとして『ROSE ローズ』を上演し続けてきた東京演劇アンサンブルの志賀澤子。

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<第一夜>

隠遁者の憂鬱――デル・ニステル「なけなしの財産」(1929)

[日時]3月20日(日)18:00~20:00(開場:17:30)

[場所]オンガージュ・サロン

[朗読]宮本荊(LifeR)・土江優理

[構成]鈴木径一郎

[翻訳・解説]赤尾光春

〔第一夜〕3月20日(日)18:00~20:00 隠遁者の憂鬱――デル・ニステル「なけなしの財産」(1929)【デル・ニステル(Der Nister 1884-1950)】
ウクライナ出身のソ連のイディッシュ語作家。ベルディーチェフ生まれ。デル・ニステルは筆名で「隠遁者」の意(本名:ピンヘス・カハノヴィチ)。ユダヤ教の教育を受けるが、世俗文化に親しむ。兵役を避けるため各地を転々としながら『着想と主題』(Gedenken un motivn)で作家デビュー(1907年)。象徴主義の影響を受け、神秘主義やフォークロアを題材とする幻想的な物語を書く。革命直後のキエフで発足した「文化同盟」(Kultur lige)に関わった後、ベルリンに移住(1921年)。1926年にソ連邦に移住後、1929年に発表された短編集『なけなしの財産』(Fun mayne giter)が批判されて長らく沈黙したが、ロシア帝政下におけるユダヤ人一家の没落をリアリズム風に描いた長編『マシュベル一家』(1939-48)を刊行。戦後、極東のユダヤ自治州ビロビジャンに赴き文化復興を呼びかけるが、1949年、イディッシュ文化人の弾圧により逮捕。翌年、極北の強制収容所内で病死。

「デル・ニステル(「隠遁者」「世捨て人」、ピンヘス・カハノヴィッチ(1884-1950)のペンネーム)は近代イディッシュ文学における最も謎めいた人物であった。予期せぬ紆余曲折に満ちた波乱万丈な人生において、彼は、神秘主義的・シンボリスト的物語からリアリズム的歴史小説の書き手へと、曖昧で謎めいたアーティストから公的なアクティヴィストへと変貌した。スターリン体制の圧政下を生きた彼は、作家の使命とは人々の証人になることであると信じるようになった。デル・ニステルのシンボリズム的遺産はイディッシュ文学の研究者らによって評価されるようになって久しいが、デル・ニステルのソヴィエト期の作品の豊かさと複雑さが広く発見され、評価されるようになったのは、ようやく最近になってからのことである。」(Gennady Estraikh (ed.), “Uncovering the Hidden: The Works and Life of Der Nister”)

 

<第二夜>

ベルリンのイディッシュ作家――ドヴィド・ベルゲルソン「二匹の獣」「盲目」(1926)

[日時]3月27日(日)18:00~20:00(開場:17:30)

[場所]オンガージュ・サロン

[朗読]イシダトウショウ・岸本愉香(sputnik. / 㐧2劇場)

[構成]鈴木径一郎

[翻訳・解説]田中壮泰

〔第二夜〕3月27日(日)18:00~20:00 ベルリンのイディッシュ作家――ドヴィド・ベルゲルソン「二匹の獣」「盲目」(1926)【ドヴィド・ベルゲルソン(Dovid Bergelson 1884-1952)】
ウクライナ出身のソ連のイディッシュ作家。裕福な家庭に生まれ、伝統と世俗の教育を受ける。デビュー作の短篇『ターミナル駅の辺で』(Arum vokzal, 1909)では、都市に生きるユダヤ人の疎外状況を描く。革命直後のキエフで発足した「文化同盟」で中心的役割を果たす。出世作『挙げ句の果てに』(Nokh alemen, 1913)は「イディッシュ文学の『ボヴァリー夫人』」と謳われ、一躍流行作家となる。1921年、ロシア内戦を逃れてベルリンに移住。1933年、イディッシュ文化再生の活路をソ連邦に見出し、ソ連に移住。第二次世界大戦中はユダヤ反ファシズム委員会に参加。1949年、イディッシュ文化人の弾圧により逮捕。1952年、銃殺。

 

 

 

<第三夜>

絶滅に抗して――ワシーリー・グロスマン「最期の手紙」(『人生と運命』(1959)より)

[日時]3月29日(火)19:00~21:00(開場:18:30)

[場所]オンガージュ・サロン

[朗読]志賀澤子(東京演劇アンサンブル)

[ピアノ演奏] 呉多美

[翻訳・解説]赤尾光春

〔第三夜〕3月29日(火)19:00~21:00 絶滅に抗して――ワシーリー・グロスマン「最期の手紙」(『人生と運命』(1959)より)【ワシーリー・グロスマン(Vasily Grossman 1905-1964)】
ソ連のロシア語作家。ウクライナのユダヤ人家庭に生まれる。1929年にモスクワ大学を卒業後、33年までドンバスの炭田で化学技師として働く。モスクワ移住後の34年、ロシア内戦期における女性コミサールとユダヤ人職人一家の交流を描いた「ベルディーチェフの町で」を発表、ゴーリキーらに評価された。37年、作家同盟に加入、翌38年には妻が逮捕された(後に釈放)。独ソ戦の勃発とともに赤軍の週刊誌『赤い星』の従軍記者として脚光を浴び、42年には中編『人民は死なず』を発表して作家生活の絶頂期を迎えるが、ユダヤ人の出自ゆえの受難も始まる(実母はナチスにより虐殺)。43年、ユダヤ人の虐殺を描いた短編「老教師」の発表後、エレンブルクとともにナチスの蛮行を記録した『黒書』の編纂に携わる(国内では発禁処分)。44年に刊行された「トレブリンカの地獄」は後のニュルンベルク裁判で使用された。46年に戯曲「ピタゴラス派を信じるなら」が批判され、スターリングラード攻防戦を描いた長編『正義の事業のために』の出版も中断(54年に刊行)。この頃から『正義の事業のために』の続編として『人生と運命』を執筆し、独ソ戦の最中にナチズムとスターリニズムの体制下で生きる人々の葛藤と格闘を壮大なスケールで描いたが、原稿は出版社に持ち込まれた直後にKGBの家宅捜索を受け没収された(80年にスイスで刊行)。最晩年は、『万物は流転する』(70年にドイツで刊行)を執筆し、タブー視されていたウクライナの大飢饉や密告の問題を取り上げた(70年にドイツで刊行)。64年に病没。

 

<第四夜>

波乱万丈の果てに――マーティン・シャーマン『ROSE ローズ』(2000)

[日時]3月30日(水)19:00~21:00(開場:18:30)

[場所]オンガージュ・サロン

[出演]志賀澤子(東京演劇アンサンブル)

[翻訳]堀真理子

[解説]赤尾光春

志賀澤子(東京演劇アンサンブル)
80歳のローズは、一人木のベンチに腰掛け、
ユダヤ教のお弔い「シヴァ」を行う。
いつか波乱に満ちた生涯を語りだしている。
旧ソ連ウクライナのユダヤ人集落に生まれ、
兄を慕ってポーランドに。
そこにナチスがやって来る。
ゲットーでの生活、戦後はパレスチナを目指して
エクソダス号に乗り、その船上での出会いは
彼女をアメリカへと導く……

〔第四夜〕3月30日(水)19:00~21:00 波乱万丈の果てに――マーティン・シャーマン『ROSE ローズ』(2000)【マーティン・シャーマン(Martin Sherman 1938-)】
1938年、フィラデルフィアのロシア系ユダヤ人移民の家庭に生まれる。ボストン大学芸術カレッジで舞台芸術を学んだ後、戯曲を執筆。ナチス収容所内における同性愛者の悲劇を描いた『ベント』(1979年)がトニー賞候補となったのを機に注目され、その後、20本近くの戯曲を執筆し、各国語に翻訳され上演され続けている。1999年にロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターで上演された『ローズ』は翌2000年にローレンス・オリヴィア劇場の最優秀戯曲賞を受賞。日本で上映された映画としては、『ベント 堕ちた饗宴』(1997)、『カーテンコール』(1997)、『永遠のマリア・カラス』(2003)、『ヘンダーソン夫人の贈り物』(2006)で脚本を手がけている。

 

 

 

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【ご予約・お問い合わせ】
各回の参加またはオンラインでの配信を希望される方は、下記の項目を記載の上、e.pithecanthropus@gmail.com(赤尾)までメールでお申込みください。

1)ご氏名
2)ご所属(任意)
3)参加ないし試聴を希望される回(複数選択可)

(記載例)
第一夜:参加希望
第三夜:試聴希望
第四夜:参加希望

 

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【プロフィール】

[企画・解説]

赤尾 光春
非常勤講師(大阪大学・関西学院大学・龍谷大学)。専門はユダヤ文化研究。共編著:『ユダヤ人と自治』(岩波書店)、『シオニズムの解剖』(人文書院)、『ディアスポラから世界を読む』(明石書店)、『ディアスポラの力を結集する』(松籟社)、共訳書:ボヤーリン兄弟『ディアスポラの力』、S・アン=スキ/V・ゴンブローヴィチ『ディブック/イヴォナ』(未知谷)、ワシーリー・グロスマン『トレブリンカの地獄』(みすず書房)。大阪外国語大学時代に劇団「檜舞台」で活動した後、サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』、ハロルド・ピンター『おとなしい給仕』(The Dumb Waiter)、S・アン=スキ『ディブック』(朗読劇)等の上演を企画・出演。

 

[構成]

鈴木径一郎
2007年に大阪で結成された劇団 sputnik.に所属。脚本家が毎回ローテーションする劇団にあって、本公演全ての演出を担当している。 作・演出作品は『エレホンの雪』(2011)、『宿酔』(2013)、『驚く方法は忘れた』(2014)等。 朗読劇『ディブック──二つの世界のはざまで』(2015)で演出を務めた。

 

[朗読・出演]

志賀澤子
女優、演出家、プロデューサー。東京演劇アンサンブル代表。1963年俳優座養成所卒業、東京演劇アンサンブル入団。『母』ペラゲーア・ウラーソワ、『沖縄』秀、『かもめ』アルカージナなど。演出『FEN-沼地』『マイという女』『海の52万石』など。脚本『食卓のない家』(文化庁創作戯曲賞佳作受賞)。東京演劇アンサンブル海外公演はプロデューサー、女優としてアメリカ、ロシア、ベトナム、イギリス、ルーマニアなど10カ国余り。1995年文化庁在外研修でミラノにて学ぶ。2016年ベトナムより日本との演劇交流貢献賞を受賞。西東京市民劇団銀河ラボ2011年創立以来毎年演出。日本新劇俳優協会理事。『ローズ』は2012年から主に両国シアターΧで続けている。直近の出演は、石原燃作『彼女たちの断片』葉子。

 

[朗読]

イシダトウショウ
大阪外国語大学ウルドゥー語学科卒。2000年より、サミュエル・ベケット作品の上演に取り組む。2006-2007パリ第7大学博士課程留学。

岸本愉香(sputnik. /㐧2劇場)
2013年『宿酔』以降の全てのsputnik.作品に出演。また、㐧2劇場の2010年以降の様々な作品にも。 ほかに2015年以降、朗読劇『ディブック──二つの世界のはざまで』、オンガージュ・サロン『ラカン 患者との対話』等に客演。

土江優理
関西を中心に活動する役者。地域の福祉施設での演劇活動や教育現場での演劇指導などにも携わる。

宮本荊
東京都内で活動中のLifeR、主宰。作・演出・出演など。共感できる喜びより知られない不幸を書き、痩身と薄幸な顔でそれを体現する。自作に限らず客演時も大抵不幸な役を回される。第一回笹塚演劇王特別男優賞。 http://lifers.jp/

 

[ピアノ演奏]

呉多美(おお・たみ)
在日コリアン3世として大阪府で生まれる。相愛大学音楽学部ピアノ専攻を卒業し、渡韓。ソウル大学音楽大学院器楽学科修士課程を卒業。ボン大学に1年間留学。在欧中にウィーン音楽大学マスタークラスなどで研鑽を積む。大阪国際音楽コンクールや日本クラシック音楽コンクールなどで受賞。現在、相愛高等中学校で後進の指導を務めつつ、関西圏の学校・幼稚園などでアウトリーチコンサートやクラシック音楽と絵本のコラボレーションなどの公演を行なっている。

 

[解説]

田中壮泰
2014年立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程修了。立命館大学文学部非常勤講師。専門はポーランド・ユダヤ文学、比較文学。論文に「二言語詩人フォーゲル」(『スラヴ学論集』第17号)、「塹壕の外の東部戦線――ゴンブローヴィチ、ヴィトリン、ロート」(渡辺公三他編『異貌の同時代―人類・学・の外へ』〔以文社〕)等。